小さき者へ

元気がなくなると、このお話を読むことがある。
一泊で温泉に泊まって次の日に普通に出社というプチ贅沢をしたい今日この頃。
関西でそんな場所ないかなぁ。
とりあえず、ベッドのマットとシーツを一新して、古いのは棄てた。

有島武郎 小さき者へ

深夜の沈黙は私を厳粛にする。私の前には机を隔ててお前たちの母上が坐っているようにさえ思う。その母上の愛は遺書にあるようにお前たちを護らずにはいないだろう。よく眠れ。不可思議な時というものの作用にお前たちを打任してよく眠れ。そうして明日は昨日よりも大きく賢くなって、寝床の中から跳り出して来い。私は私の役目をなし遂げる事に全力を尽すだろう。私の一生が如何(いか)に失敗であろうとも、又私が如何なる誘惑に打負けようとも、お前たちは私の足跡に不純な何物をも見出し得ないだけの事はする。きっとする。お前たちは私の斃れた所から新しく歩み出さねばならないのだ。然しどちらの方向にどう歩まねばならぬかは、かすかながらにもお前達は私の足跡から探し出す事が出来るだろう。
 小さき者よ。不幸なそして同時に幸福なお前たちの父と母との祝福を胸にしめて人の世の旅に登れ。前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。
 行け。勇んで。小さき者よ。

高校で教わった白樺派だっけ、あれがすごくつまらなく感じていて
有島武郎も読んだことがなかったんだけど、これは名文でしょう。
まあ、武者小路実篤の友情を中学生のころ読んだときは、悪い意味でショック
だったわけです。つまらなくて。
そのせいで、文学ってつまらんと確信して、高校のとき本をまったく読まなくなった
ほどだ。
ひょっとして大人になった今読むと感じるものがあるのかもしれぬ。