日経新聞 朝刊 春秋

名文と思うので引用
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 バンビーノと親しまれたベーブ・ルースがいた。打撃王ゲーリックもいた。来日した「世界最強」をうたう米大リーグ代表に日本は全敗したが、米監督のコニー・マックは「真のワールドシリーズ」を日米間で競う日が近いと予言する。
▼皇居にも招かれた米代表のパレードを数千人の群衆が取り囲む1934年の野球熱には知られざる裏面史もある。同行した捕手のモー・バーグがひそかに訪れた聖路加病院の屋上で東京の街を写真に収めて持ち帰った。それはのちの東京大空襲に利用されたという(L・カウフマン著『親善野球に来たスパイ』)。
▼70年余りを経て実現したWBCという世界選手権は、野球の母国で盟主である米国の脱落という予想外の展開の末、決勝で日本がキューバを破って初の覇者となった。きのうは瞬間視聴率が50%を超えた準決勝の日韓戦以上に熱い視線がテレビに注がれた。日本野球が世界の頂点にたどりついた喜びは大きい。
▼大衆文化などソフトパワーの影響力が覇権を支える重要な要素としたJ・ナイ氏にならえば、一流選手をそろえた米国の低迷はその求心力が低下した証しなのか。イラク戦争の開戦から3年を経て、内外から高まる単独行動主義への批判に揺れる大国の姿も重なる。米国一極から多極化へ野球も転機を迎えたのか。