PLCは天文学の妨げに

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なるほどねえ。PLCの時代がくると思ってたけど光のままかも。

【最終局面を迎えた電力線通信・実用化「再」論争の真実】(4)
「学術研究の妨げになる」(国立天文台・近田義広教授)

屋内に張り巡らされている電力線(電灯線)を使って通信する電力線通信。だが,アマチュア無線,短波放送,電波天文の3者は,電力線通信が各々の業務に悪影響を与えるとして実用化に強く反発している。そこで,電波天文を担う国立天文台ALMA計画推進室の近田義広教授に,電力線通信の実用化を反対する理由を聞いた。(聞き手は山根 小雪日経コミュニケーション

−−電力線通信の実用化に反対しているのはなぜか。

 エレクトロニクスの将来を心配しているからだ。我々は天文学会だけを代表して反対を述べているわけではない。400年後の人類の代表だ。
 ガリレオが木製の望遠鏡で始めて木星の衛星を発見したのが400年前。この発見が太陽系の発見につながり,現在の科学技術へとつながっている。つまり,現在のエレクトロニクスなどの発展は,元をたどればガリレオの発見に帰着する。
 電波天文は,電磁波を使って宇宙の姿を見ている。光学望遠鏡では不可能だった新たな発見は,400年後の人類に利益をもたらしてくれるはずだ。
 現在,天文学に携わっている人数や,これまでの研究成果だけで電波天文の価値を評価されては困る。学術研究の価値は,電力線通信でメーカーや電力会社が得る利益とは全く質が違うものだ。
 あえて経済的な価値で比較するというなら,これまで電波天文に投入されてきた研究開発費の多くが国民の税金であることを考えてほしい。電波天文による発見が電力線通信の実用化によって妨げられれば,それは国民にとっての損失だ。

−−電力線通信の何が問題なのか。

 電波天文は非常に弱い電磁波を相手にするため,電力線通信が普及して雑音源が増えると測定できなくなる。また,電力線通信が出す雑音は広帯域にわたり,天体現象と傾向が近いことも懸念材料だ。推進派が主張している,環境雑音レベルならば問題ないという考え方には同意しかねる。電力線通信から環境雑音と同レベルの雑音が出されれば,雑音の絶対量は増えてしまう。少なくとも,現状よりも環境雑音レベルを上げてほしくない。
 そもそも強行に実用化する必要性が理解できない。電力線通信は光ファイバ無線LANで代替できる。建物が石造りで光ファイバが引き込めないような欧州ならともかく,日本で他の無線システムに影響を与えてまで実用化する必要があるのか。

−−実用化を目指す総務省の研究会は紛糾している。

 電波天文を担う立場としては,一切の妥協をする気はない。研究会開始当初から主張してきた,ITU-R(国際電気通信連合無線通信部門)で規定されている国際的な保護基準値を守ってもらいたい。もし実用化するならば,電波天文の周波数帯については禁止帯域にしてほしい。ソフトウエアによるフィルタ(ノッチ)を電力線モデムに搭載するだけでは不足だ。
 異なるシステム間で周波数を共用することが国の方針であることは理解している。だが,電波天文で相手にしているのは宇宙からの電波。人間同士でシステムを共用するのとは事情が違う。現時点では,うまく共用できるアイデアはない。